保釈が認められるケース

 身体拘束がされたままの裁判は、被告人にとって、精神的・身体的に負担がかかります。

 たとえば、仕事をしている方は、仕事を休まなければならず、学生であれば、学校を休まなければなりません。

 もし、保釈が認められれば、刑事裁判中であっても、仕事を続けたり、学校に通うことができますので、弁護士(弁護人)としては、保釈を認めてもらうことも、重要な業務になります。

 では、どのような場合に、保釈が認められるのでしょうか。

 まず、保釈には、権利保釈というものがあります。

 権利保釈は、原則として保釈が認められるものの、一定の事由に該当する場合には、保釈を認めないというものです。

 権利保釈で一番問題となるものが、刑事訴訟法89条4号で定められている「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」というものです。

 罪証とは、いわゆる証拠です。

 つまり、身柄を拘束しないと、犯罪の証拠を処分したり、隠したりしそうな場合は、保釈を認めないというものです。

 また、裁判では、証人の証言も重要ですので、ここでいう証拠には人も含まれます。

 つまり、被告人が、証人に圧力をかけて、証言を歪める恐れがある場合は、保釈を認めないということです。

 また、権利保釈の条件を満たしていないであっても、裁判所が保釈を認めることがあり、これを裁量保釈といいます。

 たとえば、重大な疾病などがあり、病院や自宅で療養をしなければ、症状が悪化し、刑事裁判を進めることができないようなケースでは、裁量保釈が認められることがあります。

 また、刑事裁判の間、ずっと身柄を拘束されていると、仕事を失い、家族が路頭に迷うことになるといった経済的な事情や、学生が長期間、学校を休むことで退学になってしまう可能性があるなどの事情も、裁量保釈で考慮される事情になります。

刑事事件における誘導尋問

 「異議あり」という言葉は、弁護士が出てくるドラマやゲームなどの影響もあってか、広く認知されているかもしれません。

 ただ、実際の裁判では、「異議あり」という言葉を聞くケースは少ないかもしれません。

 もちろん、異議が出てしまうような変な質問がなされることが少ないということもありますが、そもそも異議を出せる場面というのは、法律上限られているということも、異議が少ない理由かもしれません。

 刑事事件の証人尋問では、誘導尋問は原則禁止とよく言われることがあり、もし誘導尋問がされれば、すぐに異議を出すかどうかを検討しなければなりません(氏名や職業など、全く争いがない事実の確認の際は、異議を出す必要はありませんが・・・。)。

  誘導尋問は、大雑把に言えば、イエス・ノーで回答できるような質問を指します。

 たとえば、犯行を目撃したという証人に対し、「あなたは、被害者が刺された場面を目撃したんですよね?」、「刺した人は、そこに座っている被告人ですよね?」といった質問は誘導尋問にあたり、このような質問がなされれば、すぐさま異議を出す必要があります。

 誘導尋問が禁止される趣旨は、質問者によって回答を暗示され、質問者が言ってほしいことをしゃべらせてしまう結果、証人等が、自らが体験した事実を語ることができず、真実が歪められてしまうおそれがあるためです。

 イエス・ノーで回答できる質問は、すでに質問者が回答してほしい事柄が出てきてしまっているので、誘導尋問になり、禁止されています。

 そこで、尋問では、イエス・ノーで回答できるような質問ではなく、5W1Hで回答しなければならないような質問をしなければなりません。

 たとえば、「あなたは、事件があった当時、どこにいましたか」、「あなたは、そこで何を目撃しましたか」、「誰が、誰を指したのですか?」といったような質問をしなければならないということです。

 

保釈制度

 刑事事件の世界では、保釈という制度が存在します。

 保釈という言葉自体は、ニュースなどでも使われることもあり、多くの方が一度は聞いたことがあるかもしれません。

 今回は、この保釈という制度について、ご説明します。

 まず、刑事事件においては、被告人の身体拘束がなされた状態で審理が進むことは、実は件数としては少数と言えます。

 多くの場合、被告人は、裁判中も普通に生活し、裁判の日だけ、裁判所に行くという生活を送ります。

 他方で、被告人が逮捕され、身体拘束がされたまま裁判が進むこともあります。

 刑事裁判は、少なくとも数か月、長ければ何年も審理に時間がかかる手続きですので、被告人にとっては、かなりの負担になってしまいます。

 そこで、刑事事件の審理中であっても、被告人の身体拘束を解除するための手続きが用意されており、これが保釈です。

 この保釈を求めるために、弁護士(弁護人)は、様々な準備をする必要があります。

 まず、被告人の身元引受人を探す必要があります。

 身元引受人は、通常は同居の親族が就任することが多いですが、雇用先の社長や、友人などが就任することもあります。

 また、保釈をするためには、保釈保証金を用意しなければなりません。

 保釈保証金は、150万円から200万円程が多く、ニュースになるような事件だと、1000万円を超えることもあります。

 

 

 

刑事事件における証拠の関連性

 刑事事件の世界では、証拠の自然的関連性という言葉が、時々出てきます。

 自然的関連性とは、ざっくり言うと、「その証拠で、ある事実の存否を推認できること」を指します。

 つまり、刑事裁判で提出される証拠は、必ず、何らかの事実の存否を証明するために提出されるので、全然関係ない証拠を提出しても、「自然的関連性がない」ということになり、証拠として認められないということになります。

 たとえば、Aさんが、覚せい剤使用の容疑で、逮捕されたとします。

 この場合、Aさんが覚せい剤を使用した証拠として、「Aさんの尿から、覚せい剤の成分が検出された」という鑑定書が提出されたら、どうでしょうか。

 このような鑑定書は、Aさんの覚せい剤を使用したことを推認させる証拠と言え、自然的関連性があるということになります。

 他方、「Aさんの友人のBさんの尿から、覚せい剤の成分が検出された」という鑑定書はどうでしょうか。

 この鑑定書があっても、Aさんが覚せい剤を使用したことを推認することは困難ですので、Aさんとの関係では、自然的関連性がないということになります(もちろん、Bさんの覚せい剤の自己使用という事実との関係では、自然的関連性ありということになります)。

 弁護士(弁護人)は、検察官が提出しようとする証拠を見て、自然的関連性があるかないかを検討し、裁判所に対し、証拠の意見を出すことになります。

簡易な刑事裁判手続き

 刑事裁判は、人の一生を左右する程に重大な手続きです。

 そのため、通常、公開の法廷で、厳格な審査が行われます。

 しかし、全ての刑事事件で、長期間かけて、厳格な審査を行うことは、非効率的であるという考え方もできます。

 たとえば、比較的軽微な事件で、証拠がそろっており、加害者も犯行を認めているような場合は、長期間の審理を経る必要性は乏しいと言えます。

 そのような場合に用意されている制度として、簡易裁判手続と、即決裁判手続というものがあります。

 両方とも、比較的軽微な事件で、争いがない事件で用いられる制度であり、短期間で、裁判を終わらせるものではありますが、簡易裁判手続は、普通の刑事裁判とおまり手間が変わらないことから、実務ではあまり使われておらず、即決裁判手続きの方がよく用いられます。

 次に、略式手続というものもあり、これが最も実務上利用されていると言われています。

 略式手続きは、検察官が、簡易裁判所に略式請求を申立て、公判手続きを経ることなく、罰金や過料を言い渡す手続きです。

 つまり、当事者は、裁判所に行く必要がなく、迅速に終了するというメリットがあります。

 他方、略式手続きは、被疑者が被疑事実を認め、争わない場合に利用する制度ですので、無罪を主張したい場合には、使うことができません。

 私が、弁護士として相談を受けた際も、略式手続のメリットやデメリットは慎重に説明するように心がけています。

被害者参加制度

 刑事事件において、2007年の法改正により、被害者参加制度というものが導入されました。

 刑事裁判は、検察と被告人が戦うという性質上、被害者の方は置き去りにされているということも言われていたため、被害者の方も、裁判に参加できるようにという趣旨で始まった制度です。

 刑事裁判では、関係者以外は、傍聴席にしか入ることはできませんが、被害者参加人は、刑事裁判に出席し、証人尋問、被告人質問などをしたり、意見を述べることが認められています。

 被害者参加制度は、全ての刑事事件が対象になっているわけではなく、一定の重大犯罪に限定されています。

 たとえば、殺人、強盗致傷、不同意性交等、逮捕及び監禁、誘拐などです。

 また、被害者参加人となることができる人は、基本的には被害者本人ですが、被害者の方が未成年の場合などは、親権者である両親(法定代理人)が、参加することができますし、被害者の方が亡くなっている場合や、心身に重大な症状があるといった場合は、被害者の方の配偶者、親、兄弟姉妹などが参加できます。

 被害者参加をする場合は、あらかじめ事件を担当する検察官に申し出て、検察官が、そのことに対する意見を、裁判所に通知することになりますが、最終的には、裁判所が参加の可否を決めることになります。

 また、被害者参加制度を利用する場合、弁護士に援助を依頼することもできます。

 

 

 

刑事事件における証拠調べ請求と証拠意見

 刑事事件での立証は、証拠によってなされます。

 そのため、検察官は、冒頭陳述の後に、犯罪事実などを立証するために、証拠の取り調べ請求を行います。

 つまり、検察官が、裁判官に対し「見てほしい証拠」を提示するわけです。

 しかし、いきなり裁判官に証拠を提示するわけではなく、まずは弁護士人に証拠が開示され、弁護人は、その証拠に対して、意見を述べることになります。

 弁護人が述べる意見には、同意、不同意、異議あり、異議なし、しかるべくといったものがあります。

 たとえば、傷害事件で、犯行現場を目撃したAさんが、警察で、目撃したことを語り、それを書面化したものが証拠請求されるとどうでしょうか。

 警察が、被告人を有罪にするために、Aさんから聞いた言葉を、若干ニュアンスを変えて記載している可能性もありますし、弁護人としては、Aさんが、間違いなくその現場で、被告人の犯行を目撃したのか、人違いの可能性はないのか、暗くてよく見えなかったのではないかなどなど、法廷で聞きたいことはたくさんあります。

 そのため、こういった書面が証拠請求をされても、弁護人は、不同意という意見を出し、Aさんには法廷で見たことを語っていただくという形を取るのが一般的です。

 また、たとえば詐欺事件において、被告人の高校の同級生のBさんが、「被告人は、高校時代、クラスメイトに暴力をふるっていた」という証言をするために、検察官が、Bさんを証人として申請した場合はどうでしょうか。

 この場合、弁護人としては、異議ありと述べることになります。

 仮にBさんを法廷に呼び、被告人が高校自体に、クラスメイトに暴力をふるっていたとしても、今回の詐欺事件とは、何ら関連性がありません。

 つまり、検察官が狙っているであろうことは、裁判官に対し、被告人が、いかに悪人かをアピールすることで、印象を悪くしようとしている点にあると予想されます。

 よって、Bさんは、詐欺事件とは何ら関係ない人なので、法廷に呼ぶべきではないということになります。

 このような弁護人の意見を参考に、裁判所は、証拠を取り調べるかどうかを判断します。

 刑事裁判は、証拠によって結論が分かれてしまうため、弁護人は、証拠に対する意見を述べる際、その内容を慎重に吟味しなければなりません。

 特に、犯罪事実を争っている事件であれば、なおさら証拠に対する意見は、慎重さが求められます。

 私が所属する弁護士法人心では、刑事事件にも力を入れていますので、お困りの方は、お気軽にご相談ください。

刑事事件の冒頭陳述

 刑事裁判は、証拠によって、犯罪事実の証明がなされるかどうかを、審理するものです。

 そのため、証拠調べ手続きが、刑事裁判において、最も重要な手続きの一つと言えます。

 証拠調べをするにあたっては、まず検察官が、証拠と証明しようとする事実や、立証の方針などを明らかにします。

 これを冒頭陳述と言います。

 裁判官は、この冒頭陳述を聞いて、事件の概要を把握し、今後の裁判の予定などを決めます。

 また、被告人にとっては、検察官の主張の概要を聞くことで、十分な防御活動をするための準備ができるという意味合いもあります。

 従来は、冒頭陳述と言えば、検察官があらかじめ用意した書面を、そのまま読み上げるという形式が多かったですが、最近は、裁判員裁判のように、一般の方にも分かりやすい冒頭陳述が求められるため、パソコンなどを活用した冒頭陳述も行われています。

 この冒頭陳述という手続きは、あくまで事件の概要や、検察官の立証計画を明らかにするものであり、裁判官や裁判員に、不当な予断を抱かせるようなことをしてはいけないことになっています。

 たとえば、検察官側が、パソコンなどで、血まみれの包丁の写真などを写した場合、どのようなことが起きるでしょうか。

 裁判員はもちろん、たとえ裁判官であっても、血まみれの包丁がスクリーンに映れば、何らかの犯罪が起きたことや、被告人がその犯人なのではないかという先入観を持った状態で、裁判が始まってしまう可能性があります。

 そのような先入観は、一度生じると、拭い去ることが難しいため、不当な判決に結び付く可能性があります。

 そのため、裁判官や裁判員に、不当な予断を与えるような冒頭陳述がなされた場合、弁護人は異議を申し立てなければなりません。

 他方、弁護士(弁護人)側も、冒頭陳述を行うことができます。

 検察官と異なり、原則として義務ではありませんが、検察官が主張するストーリーとは、異なるストーリーを展開する場合、冒頭陳述は重要な意味を持ってきます。

 たとえば、検察官が、「被告人は無抵抗の被害者Aを、一方的に殴った」というストーリーを展開した場合に、弁護側が「実は、被害者Aが先に被告人を殴ろうとして、被告人は、自分の身を守るために、被害者Aを殴った」というストーリーを主張した場合はどうでしょうか。

 争点は、被告人が被害者Aを殴ったかどうかではなく、被害者Aが先に被告人を殴ろうとしたかどうかであることが、非常に分かりやすくなります。

 このように、検察側と、弁護側が、どの部分で対立し、各々がどのような主張を展開しようとしているのかを明確にしたい場合、弁護人の冒頭陳述が重要な意味を持ってきます。

 

 

刑事事件の冒頭手続き

 刑事事件を傍聴したことがある方は、冒頭手続きを見たことがあるかもしれません。

 刑事事件の公判は、冒頭手続きというものがあり、冒頭手続きが終わってから、証拠調べ手続きを経て、当事者の最終意見の陳述を行うことになっています。

 冒頭手続きというのは、一言で言うなら、今回の裁判がどのようなものかを明らかにし、どのように裁判を進めていくかを知らせるものです。

 まず最初に、人定質問というものを行います。

 これは、法廷に立つ被告人が、身代わりだったり、人違いだったりしないかを確認するための手続きです。

 具体的には、裁判官が、被告人に対し、氏名、生年月日、住所、職業などを質問します。

 次に、起訴状朗読が行われます。

 起訴状とは、検察が、「被告人が、こういった犯罪を犯しました」ということをまとめたものです。

 たとえば、万引きであれば、被告人が、いつ、どこで、どんな商品を盗んだのかが記載されます。

 その次に、裁判官が、被告人に対し、黙秘権があることを伝えます。

 黙秘権という言葉は、文字どおり、話したくないことは話さなくていいという権利です。

 また、黙秘したことを理由に、不利な取り扱いを受けないという権利でもあります。

 

 これらの部分は、裁判官によっては、あっさりと告知するにとどまることもあるので、弁護士(弁護人)としては、公判の前の段階で、あらかじめ説明しておくことが必要です。

 その後に、被告人が、起訴状記載の事実について、意見を述べることになります。

 ここで言う意見とは、まず起訴状記載の事実を争うかどうかがメインと言えるでしょう。

 たとえば、起訴状に「令和6年2月1日15時頃、××にあるコンビニで、200円のパンを盗んだ」という事実が記載され、全く心当たりがない場合は、「起訴状記載の事実に、全く心当たりがありません」といった意見を述べることになります。

 また、「私は、その時間、会社の会議に出席しており、犯行は不可能です」といった、いわゆるアリバイがある旨を主張することもあります。

 また、傷害事件などであれば、確かに反撃はしたが、正当防衛であるといった主張もあり得ます。

 ニュースなどでよく流れるのは、「犯行当時、判断能力が無かった」というものですが、これも冒頭手続きの意見陳述で主張される内容です。

 他方、起訴状記載の事実を争わない場合は、「間違いありません」と述べることになります。

 実際の刑事事件では、「間違いありません」と述べることが、圧倒的に多いと言っていいでしょう。

 そのようになる理由は、検察は、基本的に有罪にできると確信した事件しか起訴しないからであると言われることが多いです。

 

 

 

起訴から公判までの準備

 検察官が起訴したということは、いよいよ刑事裁判が始まるということを意味します。

 検察庁は、負ける戦いはしない組織と言われることがあるほど、有罪にできる自信がある時だけ、起訴をする傾向にあります。

 そのため、弁護人としては、起訴後の弁護活動も、非常に重要なものになります。

 まず、起訴された場合は、起訴状を入手する必要があります。 

 起訴状には、被告人が、どのような行為が、どのような罪になるのかについて、検察官の主張が記載されています。

 起訴状には、証拠がついていないため、起訴状を読んだら、まずは検察官がどのような証拠で立証をしようとしているのかを予測する必要があります。

 たとえば、飲食店の中で暴行事件が起きたという場合であれば、その飲食店の店員の証言が重視されるかもしれませんし、店内の防犯カメラの映像が証拠として提出されるかもしれません。

 他方、覚せい剤などの薬物事件では、被告人の体内から、薬物が検出されたり、被告人の家から薬物や薬物接種のための器具が発見されているかもしれません。

 この時点で、事件の見通しを立てるのですが、実際の裁判が始まる前に、弁護人は、検察官が裁判所に提出する予定の証拠を、閲覧・謄写することができます。

 弁護人は、当該証拠を見て、検察官の立証構造を把握します。

 その上で、公判で、どのような主張を行うかを決めていきます。

 まず、最初に決めることは、起訴状に記載された事実を認めるかどうかです。

 証拠上、犯罪事実があったことが明らかで、被告人もそれを認めている場合は、犯罪事実については争わず、情状面での立証をしていくことになります。

 他方で、検察官が提出した証拠では、犯罪事実が証明できていないような場合や、被告人が、犯罪事実を争っている場合は、検察官の立証構造を崩すための方針を固めることになります。

 特に、犯罪事実を争う場合は、弁護人側も、積極的な証拠収集が必要になります。

 まず、検察官側は、持っている全ての証拠を、開示しているわけではありません。

 有罪の立証に必要な証拠を厳選して、裁判所に提出しようとしています。

 しかし、検察官が提出していない証拠には、被告人にとって有利な証拠が存在する可能性があります。

 そこで、できるだけ証拠を集めるために、弁護人は、検察官に、証拠の開示請求を行っていきます。

 検察官が任意に証拠開示に応じる場合は、それでいいのですが、証拠開示に応じない場合もあります。

 その場合は、裁判所に対し、証拠開示命令の申立を行い、積極的に証拠を集めていくことになります。

 こういった、起訴前の攻防についても、弁護士としての力量が問われます。

 

刑事事件における協議・合意制度

 2016年に刑事訴訟法が改正され、新たな制度が設けられることになりました。

 具体的には、ある犯罪の疑いをかけられた人が、他の共犯者を特定するための協力をすることで、その協力者に一定の恩恵を与える制度です。

 つまり、犯罪を犯した人が、捜査機関に協力することで、不起訴処分や軽い求刑を得ることが可能になる制度です。

 もっとも、この制度が適用されるのは、一定の犯罪に限定されます。

 大きく分けると2つの類型があり、1つは薬物銃器犯罪で、もう1つは経済犯罪と言われるものです。

 いずれも、組織的に行われる可能性が高い犯罪類型が対象と言えるでしょう。

 具体的には、銃砲刀剣類所持等取締法、武器等製造法、大麻取締法、覚せい剤取締法、贈収賄関係の罪、組織的犯罪処罰法などが対象です。

 つまり、これらの犯罪は、組織のトップは、直接手をくだすことなく、あまり事情を分かっていない組織の末端の人たちに、犯罪行為を行わせることがあるため、組織のトップを捕まえるために、このような制度ができたと言えるでしょう。

 では、具体的に、どのような合意を行うかですが、まず、被疑者・被告人は、取り調べや証人尋問において、真実を述べる事、証拠の収集に関し、適切な協力をすることが求められます。

 検察官は、その協力の見返りとして、不起訴、公訴取消し、略式命令請求等、被疑者・被告人に対し、刑事上、有利な見返りを約束します。

 ただし、この制度は、自身の罪を免れるために、虚偽の証言を誘発しやすいという側面もあります。

 そのため、この制度を利用するためには、弁護人の同意が必須で、最終的な合意書面に、弁護人の署名が求められます。

 この制度は、真実の解明や、組織的犯罪の首謀者を裁判にかけやすくなるといった観点から、有用なものですが、弁護士として、この制度を使うべき場面が来れば、慎重な対応が求められます。

 まず、刑事事件においては、虚偽の共犯者をでっちあげて、自分の罪を軽くしようとすることは、一定の頻度で行われることです。

 そのため、弁護人としては、この制度を使おうとしている被疑者・被告人が、本当に真実を述べ、捜査機関に協力しようとしているのかを、慎重に判断しなければなりません。

 仮に、この制度を利用したにもかかわらず、法廷で虚偽の証言をすれば、偽証罪に問われ、さらには司法警察職員らに対する虚偽供述罪が問われますので、この点を十分に説明しなければなりません。

 他方で、この制度を使うことで、その被疑者・被告人は、刑事上、有利な扱いを受けるわけなので、弁護人として、慎重になり過ぎて、この制度を利用しないというわけにもいきません。

 そのため、様々な事情を総合考慮して、判断することが求められます。

 

 

刑事弁護人による証拠収集

 刑事裁判の基本は、証拠による証明です。

 基本的に、刑事裁判においては、検察側が証明責任を負っているため、検察側が犯罪事実を証明できなければ、無罪判決が出るということになります。

 その理屈から言えば、検察側が犯罪事実を証明できなければ、弁護人は、何もしなかったとしても、無罪判決が出るということになりますが、実際はそんなことはあり得ず、弁護人も必死に証拠をかき集めます。

 しかし、弁護人は、捜査機関ではありませんので、強制捜査を行う権限がありません。

 ニュースなどで見たことがある方も多いと思いますが、たとえば警察は、被疑者・被告人の自宅に入って、段ボールに物をつめて、回収していくといったことができますが、弁護人には、そのような権限はありません。

 つまり、証拠の収集能力という点において、弁護人は、圧倒的に不利な立場にあります。

 そんな中でも、弁護人は、証拠集めに奔走しなければなりません。

 どのようにして証拠を集めるかですが、まずは被疑者・被告人からの十分な聴き取りがスタートです。

 特に、弁護人は、裁判が始まる直前まで、裁判所に提出される証拠を見る事さえできず、検察側がどんな証拠を持っているのかを知ることもできません。

 そこで、被疑者・被告人から、どのような疑いで捜査を受けたのか、どのような取り調べをされているのか、その疑いは事実なのかといったことを、丁寧に聴き取ることが求められます。

 その聴き取った内容をもとに、検察側が証明しようとする事実と、それを証明するための証拠を推測し、証拠集めをスタートします。

 たとえば、被疑者・被告人が、犯罪事実に全く心当たりがないと言っている場合は、犯行当時、どの場所にいたのか、そこにいたことを証明する証拠や、証人を探すことになります。

 また、たとえば相手を殴ってしまったのは事実だが、先に相手が殴りかかってきたので、自分を守るために殴り返したと、被疑者・被告人が言っている場合、裁判では、正当防衛を主張しなければなりません。

 そういった場合、相手が先に殴った証拠が必要になるので、たとえばその状況を移した防犯カメラの有無、スマートフォンなどで撮影していた人がいないか、その場を目撃した人がいないかなどを聴き取り、証拠集めをしていくことになります。

 もっとも、弁護士がコンビニなどに「防犯カメラの映像を見せて欲しい」と言っても、応じてもらえないということも多々あり、このあたりも捜査機関との情報収集能力に差があると言える点です。

 そのため、弁護人は、少ない手がかりから、少ない手段をフル活用して、刑事弁を行う必要があります。

 また、いざ裁判になれば、検察側が持っている証拠が分かるので、その証拠が犯罪事実を証明するには足りない、弱い証拠であることの主張を行っていくことになります。

当番弁護士制度・国選弁護制度の違いなど

 刑事弁護の世界では,当番弁護士制度というものがあります。

 弁護士会は,各都道府県にある弁護士会という組織に所属していますが,その各弁護士会が当番弁護士制度というものを運営しています。

 被疑者やその家族などが,弁護士会に「接見をして欲しい」という依頼をして,当番の弁護士が接見に応じるという制度です(もっとも,弁護士会によっては,私選弁護人紹介制度というものが併設されているか,私選弁護人紹介制度のみがあるところもあります。)。

 実際に接見をした弁護士に,弁護人になってほしい場合は,その旨の契約を申し出ていただくことになります。

 他方で,国選弁護人という制度もあります。

 国選弁護制度は,お金を用意できないため,弁護人に依頼ができない場合に,弁護人を付けるための制度です。

 国選弁護は,裁判になる前と後で,呼び名が異なります。

 裁判が始まるまでの場合は,被疑者国選と呼ばれます。

 他方,裁判が始まった後の場合は,被告人国選と呼ばれます。

 被疑者国選は,どんな事件でも使える制度ではありません。

 たとえば,暴行,死体遺棄,公務執行妨害,迷惑防止条例違反などは,被疑者国選の対象外です。

 このような事件で,弁護人を依頼したい場合,被疑者弁護援助制度というものを利用することになります。

 ところで、弁護士は、国選弁護人としてお仕事を受ける際、ある意味、覚悟をしなければならない点があります。

 たとえば、お金に余裕があって、弁護人を雇える方は、弁護人と自由に選べますし、その弁護人がちゃんと弁護してくれない人だった場合、弁護人を解任することができます。

 他方で、国選の場合、被疑者・被告人は、自由に弁護人を選んだり、弁護人を解任できるわけではありません。

 つまり、国選の場合、被疑者・被告人は、(ある意味)唯一の味方という立場である弁護人を、自由に選ぶことができず、自由に解任をすることもできないのです。

 そのため、国選弁護人としてお仕事を受ける際は、「この人の味方は自分だけで、代わりはいないんだ」という覚悟を決めて、弁護活動をしなければなりません(私選弁護の方を適当にやっていいという趣旨ではありません。念のために。)。

 また、国選弁護人として活動する際、被疑者・被告人の方から事情をきくといったこともよくあります。

 その際に、少し困るのが、金品などを渡そうとする方がいらっしゃることです。

 被疑者・被告人のご家族の方に多いのですが、お話をうかがう際、手土産をお持ちいただいたり、商品券や現金を渡そうとする方がいらっしゃいます。

 ご家族の事を、しっかり弁護して欲しいという想いのあらわれだと、重々理解しているのですが、弁護士として、そういったものを受け取ることはできません。

 そのため、そういった申し出に対しては、丁重にお断りをするようにしています。

逮捕・勾留された場合の弁護活動

 何らかの犯罪の嫌疑をかけられた場合、逮捕されてしまうことがあります。

 もっとも、犯罪の嫌疑があったとしても、必ず逮捕されるわけではありません。

 逮捕しておかないと、逃亡してしまう可能性や、証拠を隠滅してしまうような可能性がある場合に、逮捕がなされます。

 逮捕されると、留置所というところに入れられ、警察からの取り調べを受けることになります。

 逮捕から48時間以内に、検察官に事件の内容が知らされ、勾留請求するかどうかが決まります。

 検察官が、勾留請求をしたいと考えれば、裁判官に対し、勾留請求を行い、裁判官が認めれば、そこから10日間、身柄拘束されることになります。

 さらに、検察官が、勾留を延長する必要があると判断した場合、最大で10日間、勾留が延長されます。

 このように、逮捕・交流がなされると、長期間、留置所に拘束され、その間、学校に行くことや仕事に行くことはできず、さらに外部の人と会うことも困難な状態になります。

 仮に、無断で20日も仕事を休めば、それだけで職を失うことにもなりかねません。

 そこで、弁護士は、身柄拘束が長引かないような弁護活動をすることになります。

 まず、逮捕後、検察官に事件の引き継ぎがなされた段階で、勾留請求をしないように働きかけます。

 勾留請求は、どのような場合でも認められるわけではなく、法律上の要件が定められています。

 弁護士は、「今回は、逃亡のおそれはないし、証拠隠滅のおそれもない」といったことを、検察官に訴えます。

 また、検察官が勾留請求をした場合、弁護士は、裁判官に対し、勾留請求を認めないよう働きかけていきます。

 ただし、統計的は、たとえば2017年で勾留請求は約95%が認められているため、なかなか厳しい現実があります。

 また、勾留が認められた後、弁護士は、勾留をやめて、すぐに身体拘束を解くように求めていきます。

 勾留からの解放を求める行為を、法的には準抗告と呼びます。

 勾留中であっても、弁護士は接見をすることができるので、事件の具体的な内容を聞くことができます。

 そこで得た情報をもとに、今後の弁護方針を決めたり、あるいはご家族に連絡を取り、学校や職場へどのような説明をするかを検討します。

 同時に、検察官が被疑者を裁判にかけることを検討している場合には、それをさせないための活動を行います。

 たとえば、被疑者が犯罪事実を否認している場合は、それを証明するための証拠を集めますし、犯罪事実自体は認めている場合、被害者との示談をしていくことになります。

 

刑事事件における接見

 刑事もののドラマなどで、たまに接見という言葉が出てくることがあります。

 接見とは、犯罪の容疑をかけられた人が逮捕され、弁護士がその方に会いに行くようなことを指します。

 通常、一般の方は、刑事施設にいる方に会うことは難しいのですが、弁護士は、刑事弁護をするために、打合せが必要であるため、法律で接見をする権利が認められています。

 意外かもしれませんが、最初に弁護士が接見に行くときは、弁護士は事件の内容をほとんど知らない状態で刑事施設に行きます。

 事件に関する証拠を見ることもできませんし、どのような経緯で逮捕がされたのか、加害者・被害者の人間関係なども知らない状態で、接見を行います。

 そのため、最初の接見は、逮捕されている方から、たくさんの情報を引き出さなければなりません。

 ところが、なかなか簡単にはいかないこともあります。

 まず、逮捕された方は、慣れない環境や、取り調べなどによって、精神的に参ってしまっている場合が多く、なかなか心を開いてくれないケースも少なくありません。

 また、不利なことは言いたくないという心理から、弁護士にも嘘をついたり、肝心な部分を説明しないといったこともあります。

 そのため、弁護士は、まず逮捕された方に心を開いてもらい、何でも話してもらえるような関係づくりをしなければなりません。

 何でも話す事ができるような関係が築けた後は、事件のことについて、詳細を教えてもらうことになります。

 逮捕された方が、身に覚えがないことで逮捕されたと主張している場合、その潔白を証明し、すぐに釈放されるような活動を目指すことになります。

 具体的には、どういった犯罪の疑いをかけられて逮捕されたのか、被害者の方とはどのような関係か、犯行時刻にどこにいたのかなどを詳細に聴き取り、捜査機関側に早急な釈放を求めます。

 とはいえ、全く身に覚えがないにもかかわらず、逮捕されるということは、そこまで多いケースではなく、最初から犯行を認めているケースの方が多い印象があります。

 たとえば、「万引きしてしまった」、「暴力をふるって、けがをさせてしまった」など、自身の犯行を認めているケースでは、被害者に弁償するといった活動をすることになります。

 このように、最初の接見では、逮捕された方から、できるだけ情報を聴き取り、最適な弁護方針を決めなければなりません。

 もちろん、接見は1回だけとは限らず、必要に応じて、何度も行います。

 逮捕された方にとっては、弁護士は、制限なく会うことができる唯一の存在ですので、弁護士は、その立場を自覚し、真摯に向き合わなければなりません。

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会社の債務整理

 世の中には色々な会社がありますが、多くの会社が、何らかの借り入れをして、その資金で事業を行い、少しずつ借り入れの返済を行っています。

 会社の経営が順調な間は、全く問題ないのですが、会社の経営が悪化し、借り入れの返済が難しくなる場合があります。

 そうなった場合、会社の債務整理というものを検討しなければなりません。

 では、会社の債務整理には、どのような種類があるのでしょうか。

 まず、代表的なものとして、清算型の債務整理があります。 

 これは、いわゆる倒産という言葉から連想されるであろう手続きで、会社の事業をストップし、会社の財産を処分して、債権者に返済を行うという手続きです。

 たとえば、会社が不動産や自動車を所有している場合、これらを売却して、債権者への返済にあてることになります。

 次に、再建型の債務整理と呼ばれるものがあります。

 再建型は、債務返済の負担を軽くすることで、会社を存続させることを目的とした手続きです。

 会社を存続させるため、手続中も経営者は経営権を持ったまま、事業を継続していくことになります。

 ただ、再建型は、手続きが非常に複雑で、裁判所に数百万円以上の費用を納めなければならないなど、ハードルが高い手続でもあります。

 では、清算型の手続きと、再建型の手続きは、どちらを選択すべきでしょうか。

 一般的には、再建型を目指すことができるのであれば、まずは再建型を検討すべきと言われることがあります。

 その理由の1つは、連鎖倒産を防ぐというものです。

 たとえば、A社が倒産してしまった場合、A社に1000万円を請求しようと思っていた取引先のB社は、その1000万円を回収できないということになります。

 B社は、その1000万円で、新しい仕入れをして、お仕事をしようと思っていたのに、その1000万円が入ってこないことで、お仕事ができなくなりB社も倒産するという可能性があります。

 さらに、B社に1000万円請求しようと思っていたC社がいた場合・・・と考えていくと、1つの会社が倒産することで、連鎖的に関係する会社が倒産してしまうということがあり得ます。

 そのため、まずは再建型の検討が必要です。

 では、どのようなケースで、再建型を選択できるのでしょうか。

 まず当然ながら、資金繰りが適切な状況であることが必須です。

 たとえば、商品を仕入れたものの、その仕入れ代金を支払うお金がなかったり、従業員の給料さえ支払えないといった状況であれば、再建型を目指すのは厳しいでしょう。

 次に、返済計画を立て、それを履行できる見込みが必要になります。

 再建型は、破産と違って、債務が全て免除されるような手続きではありません。

 そのため、返済計画を作成し、そのとおりに返済できる見込みが必要です。

 では、資金繰りが厳しかったり、返済計画の履行が厳しい場合は、事業を辞めざるを得ないのかというと、必ずしもそうではありません。

 たとえば、借り入れの返済さえなければ、事業の収支自体は黒字であるという場合、他社に事業譲渡を行うことで、その事業を存続させることができる場合もあります。

 このように、会社の債務整理は、どの手続きを選択するかを、色々な要素から検討しなければなりません。

 会社の債務整理について、ご検討されている方は、弁護士にご相談ください。

親権者の変更とは

 親が離婚し、子が未成年の場合、父親と母親のどちらかが親権者になります。

 近年では、共同親権制度の創設といった議論がありますが、今の日本の法律では、共同親権は認められていません。

 ところで、日本では、母親の方が親権者になることが圧倒的に多いと言われますが、もし母親が親権者として不適切な対応をしていた場合、どうなるでしょうか。

 たとえば、母親が子に暴力をふるっていたり、ネグレクトをしていたりすると、子の福祉という観点からは、放置することが適切ではない場合もあるでしょう。

 未成年の子が中学生や高校生であれば、自分から父親のもとに逃げるということもできるでしょうが、未成年の子が乳児や幼稚園児だった場合、一刻を争うということもあります。

 そのような場合でも、一度母親を親権者と決めた以上は、親権者を変えることはできないのでしょうか。

 実は、日本の法律では、親権者の変更という手続きが存在します。

 この制度を利用すれば、一度決まった親権者の変更をすることができます。

 法律上は、「子の利益のため必要があると認めるとき」に親権者の変更が可能とされています。

 だれがこの点を判断するかですが、父親や母親が話し合いで決めるといったことはできず、必ず裁判所での手続きを踏む必要があります。

 具体的には、家庭裁判所での調停や審判という手続きが必要です。

 もっとも、母親が子に暴力をふるっており、このままでは子の生命・身体に重大な危険が訪れることが明白な場合、調停や審判を行っている間に、取り返しがつかないことになるかもしれません。

 母親が子を虐待しているようなケースで、父親が親権者の変更を申し立てると、母親による虐待が悪化する可能性があります。

 そういったケースでは、保全処分という制度を利用することが考えられます。

 親権者の変更の保全処分とは、たとえば親権者の職務執行停止と、親権行使の職務代行者の選任が考えられます。

 まず、親権者の職務執行停止によって、親権者の親権を一時的に使えないようにします。

 その上で、職務代行者に選任された者は、一時的に親権者としての権利を行使できるようになるため、上記の例だと父親を親権行使の職務代行者にすることで、父親が親権を行使できるようにします。

 これにより、父親が子をいったん引き取ったうえで、親権者変更の調停や審判を進めることができます。

 ここまで、親権者の変更手続きについて、ご説明しましたが、このような正規の手続きを踏むことなく、子を想うばかりに、子を連れ去ってしまうということがニュースになったりします。

 しかし、親権者ではない者が、親権者のもとから子を連れ去る行為は、犯罪になってしまう可能性があります。

 親権でお悩みの方は、一度弁護士にご相談ください。

個人事業主の自己破産

 個人事業主の方は、サラリーマンやパートの方と異なり、事業用の借入がある方が多くいらっしゃいます。

 事業用の借入は、金額が大きいため、利息を支払うだけでも負担が大きく、事業が上手くいかなくなれば、返済は難しくなってきてしまいます。

 もし、返済が難しくなってしまった場合は、自己破産を検討しなければなりません。

 しかし、個人事業主の方が自己破産を検討する際は、サラリーマンやパートの方の自己破産とは、やや異なる観点が必要になってきます。

 まず、サラリーマンやパートの方が自己破産をしても、基本的にはお仕事に影響はありません(一部資格制限がつくものはあります)。

 しかし、個人事業主の方は、自己破産によって、事業を廃業しなければならないケースがあります。

 たとえば、特別な機械で、商品を生産している場合、自己破産をすればその機械は、原則として売却し、返済にあてなければなりません。

 つまり、事業をする上で必要な機械がなくなってしまうので、少なくとも同じ事業の継続は難しくなってしまいます。

 また、特別な機械を売却する必要はないケースであっても、事業の継続が困難なこともあります。

 たとえば、取引先に未払のお金が300万円ある場合、自己破産をすると、返済義務がなくなります。

 そうなれば、取引先は、300万円の債権を失うことになるため、仕事上での信頼を失い、今後は取引をしてくれなくなる可能性があります。

 その取引先からしか入手できない商品などがある場合は、事業の継続が困難になります。

 他方、他の取引先から商品を仕入れるといったことができるのであれば、事業の継続は可能な場合もあります。

 また、個人事業主の方が自己破産をする場合、注意が必要なのは、管財人の存在です。

 個人事業主の方は、事業用のお金と、生活費とがあまり分けて管理されていない場合が多いため、原則として管財人が選任され、管財人の監督下で手続きを進めることになります。

 そのため、管財人に支払うお金を用意しなければなりません。

 また、事業用に借りている物件がある場合、あらかじめ引渡しをしておかないと、管財人が代わりに引渡し業務を行うことになり、管財人に支払うお金が増えてしまいます。

 よって、可能な限り、裁判所に書類を提出する前に、事業用に借りている物件は、引渡しをしておく必要があります。

 このように、個人事業主の方が、自己破産を行う場合、サラリーマンの方やパートの方とは異なった観点から、手続きを進めていく必要があります。

 個人事業主の方で、自己破産を検討されている方は、まず弁護士にご相談ください。

会社が倒産する際の経営者保証ガイドライン

 多くの中小企業は、事業用資金を借入れ、そのお金を活用して、事業を行います。

 借り入れの返済が順調であれば、何の問題もないのですが、経営状態が悪化し、返済ができなくなってしまうという事態もあります。

 もし、従業員のお給料や、取引先への支払いも含め、会社のキャッシュが尽きてしまった場合は、会社は倒産せざるを得なくなります。

 また、中小企業が借り入れをする際は、多くのケースで社長が連帯保証人になっています。

 そのようなケースでは、社長も同時に自己破産をせざるを得ないケースが多いでしょう。

 しかし、会社の倒産=社長の自己破産というのは、社長にとって酷だという意見も多かったため、救済措置として、経営者保証ガイドラインというものが設けられています。

 経営者保証ガイドラインを利用すれば、社長が一定の財産を手元に残した上で、保証債務を失くすことができる場合があります。

 では、自己破産と、経営者保証ガイドラインには、どのような違いがあるのでしょうか。

 まず、手続きの対象になる債権者に違いがあります。

 自己破産では、全債権者が手続きの対象ですが、経営者保証ガイドラインでは、原則として保証債権者である金融機関が対象です。

 次に、経営者ガイドラインを使うためには、主債務者が中小企業であること、主債務者と保証人が弁済に誠実であることといった条件がつきます。

 また、大きな違いとして、自己破産は債権者の同意なく利用できる制度ですが、経営者保証ガイドラインは、債権者の同意がなければ、保証債務の免除はされません。

 さらに、自己破産をすると、債務者はいわゆるブラックリストに登録されますが、経営者保証ガイドラインを利用すれば、ブラックリストに登録されません。

 このように、自己破産と経営者保証ガイドラインでは、手続きの方法や利用条件が異なりますが、どのようなケースで、どちらを選択するのかは、様々な事情を考慮して、決める必要があります。

 たとえば、社長が保証債務以外にも、個人で多額の借入をしている場合、その借入は経営者保証ガイドラインの対象外の債務であるため、経営者保証ガイドラインを利用しても、社長は個人の借入を返済しなければなりません。

 そのため、社長個人が多額の借入があり、その返済が難しい場合は、自己破産を選択すべきでしょう。

 また、保証債務の債権者が、保証債務の免除に応じない姿勢を示している場合も、自己破産を視野に入れる必要があります。

 他にも、色々な要素を考慮した上で、どのような手続きを取るべきかを検討する必要がありますので、経営者保証ガイドラインの利用を検討している方は、弁護士にご相談ください。

自己破産と資格制限

 お仕事の中には、一定の資格が必要なものがあります。

 たとえば、弁護士のお仕事は、弁護士の資格がなければできず、もし資格がない状態で弁護士の業務を行えば、罰せられる可能性があります。

 自己破産をした場合、突然お仕事がクビになるようなことはありませんが、一定の資格は、その使用を制限されてしまうことがあり、その結果、一定期間はお仕事ができなくなってしまうことがあります。

 たとえば、弁護士、司法書士、税理士、公認会計士、社会保険労務士、不動産鑑定士などの士業系の資格は、自己破産によって、資格の制限を受けます。

 また、警備員、生命保険募集人、損害保険代理店、宅地建物取引業者、建設業、貸銀賞なども、自己破産による資格制限があります。

 また、後見人のように、誰かの財産を管理する立場にある場合も、その資格が制限されます。

 そのため、たとえば警備員のお仕事をしている方が自己破産をする場合、警備員のお仕事を続けることが難しくなる場合があるため、場合によっては、自己破産以外の債務整理の方法を検討する場面もあります。

 しかし、ずっと警備員のお仕事ができなくなるわけではなく、自己破産の手続きが始まってから、債務の返済義務が免除される「免責決定」が出るまでの間のみ、資格が制限されるにとどまります。

 資格の制限を受けている間は、警備業務以外の業務に配置換えをしてもらったり、休職するなどといった対応が考えられますので、お勤め先の会社に相談することも検討が必要です。

 また、会社の取締役をしている方が自己破産をする場合、取締役の地位を失うことになっています。

 しかし、再度会社の取締役に就任することは制限されていないため、いったん取締役の地位を失ってから、株主総会で再度取締役に就任することも可能です。

 最後に、資格の制限ではありませんが、自己破産をすると、信用情報機関にその旨が登録されます。

 信用情報機関とは、全国銀行個人信用情報センター(KSC)、日本信用情報機構(JICC)、シー・アイ・シー(CIC)の3つがあり、自己破産をした場合、これらの機関に情報が登録され、その結果、新たに借り入れをしたり、クレジットカードを作成したりといったことが難しくなります。

 とはいえ、いつまでも新たな借り入れや、クレジットカードの作成ができないわけではなく、免責決定を受けてから5年から10年程経過すれば、信用情報機関のデータは消えることが多いです。

 信用情報機関のデータが消えれば、新たな借り入れや、クレジットカードの作成が可能になります。