相続分の譲渡と相続分の放棄

 たとえば、お父さんが亡くなり、相続人として、お母さん、長男、次男がいたとします。

 それぞれの法定相続分は、お母さんが2分の1、長男と二男は4分の1ずつです。

 このケースで、長男が「自分の相続分を、お父さんと仲が良かった友達のAさんにあげたい」と思った場合、相続分の譲渡という方法で、その希望を実現することができます。

 相続分の譲渡とは、簡単に言うと、相続人としての権利を譲り渡すことを指します。

 そのため、今回の例だと、Aさんは、相続人ではありませんが、長男から相続分を譲り受けたので、相続人と同じように、遺産分割協議に参加することができるようになります。

 では、この相続分の譲渡は、どのような方法で行えばいいのでしょうか。

 実は、相続分の譲渡の方法は、法律で定められていません。

 相続分を譲渡したい人と、譲り受けたい人が、その合意をすれば、相続分の譲渡が可能です。

 合意の方法は、書面でもいいですし、口頭でも有効ですが、その後の色々な相続手続のことを考えると、書面化し、実印と印鑑登録証明書の添付が必須と言えるでしょう。

 また、相続分の譲渡は、他の相続人の同意なく可能です。

 先ほどの例だと、長男はお母さんや次男の意向とは関係なく、Aさんに相続分の譲渡ができます。

 また、相続分の譲渡は、有償・無償を問いません。

 たとえば、長男がAさんに、1000万円で相続分を譲渡してもいいし、反対にタダで相続分を譲渡してもいいとされています(ただし、贈与税の問題は考慮が必要です)。

 他方、似たような言葉として、相続分の放棄というものがあります。

 先ほどの例で言うと、長男が、遺産を受け継ぎたくないと思い、お母さんや次男に「相続分の放棄をする」と宣言するようなケースです。

 この相続分の放棄は、相続放棄とは意味が違う点に注意が必要です。

 相続分の放棄は、相続人としての地位を維持したまま、自分が持つ相続の権利を放棄することなのでで、借金などのマイナスの財産は、そのまま受け継ぐことになります。

 他方、相続放棄は、相続人としての地位を失うための手続なので、プラスの財産はもちろん、借金などのマイナスの財産も受け継がないという制度です。

 また、相続分の放棄は、あまりメジャーな制度ではないため、相続分の放棄をしても、不動産や預貯金の名義変更ができない場合もあるため、手続選択は慎重に行う必要があります。

 相続分の譲渡、相続分の放棄、相続放棄など、相続に関する手続きは、似たような言葉であっても、全く意味合いが異なるものがありますので、相続の手続きをする際は弁護士にご相談ください。

 

法定相続分と指定相続分

 人が亡くなると、遺産は誰のものになるのでしょうか。

 遺言書などがない場合、遺産はいったん、相続人の共有物になると考えられています。

 たとえば、お母さんが亡くなり、相続人としてお父さん、長女、二女がいる場合、お母さんの遺産は、長女と二女が一時的に共有している状態になります。

 このとき、「相続人3名は、どのような割合で、遺産を所有していると言えるか」が問題になりますが、このような持分割合は相続分と呼ばれています。

 法定相続分とは、法律で定められた相続分の事で、先程の例だとお父さんが2分の1、長女と二女がそれぞれ4分の1ずつの権利を持つことになります。

 他方、民法では、指定相続分と呼ばれる概念もあります。

 たとえば、お母さんが、遺言書を作成し、「お父さん、長女、二女の相続分は3分の1ずつにする」旨の記載をしておくと、法定相続分とは異なった持分割合を実現できます。

 また、この相続分の指定は、第三者に委ねることもできるとされています。

 たとえば、先程の例で「お父さん、長女、次女の相続分をどうするのかの判断は、大阪太郎弁護士に委ねます」という遺言書を作成した場合、大阪太郎弁護士が、相続分の割合を決める権限を持ちます。

 では、仮に「お父さん、長女、次女の相続分をどうするのかの判断は、お父さんに委ねます」という内容の遺言書の場合は、どうなるでしょうか。

 この内容だと、お父さんが、ついつい自分の取り分を多くしたいという誘惑にかられてしまう可能性があります。

 そのため、こういった内容だと、相続分の指定の委託は、無効になるという見解が有力です。

 他方で、遺言は、あくまでも遺言者の最終意思が尊重されるべきという観点から、こういった内容の相続分の指定も有効だという見解もあります。

 では、さらに珍しい事例として、一部だけ相続分を指定した場合は、どうでしょうか。

 たとえば、お母さんが「長女の相続分は5分の2とする」旨の遺言書を作成した場合、お父さんと二女の相続分は、どうなるでしょうか。

 この場合、「配偶者の相続分は、本来2分の1ある以上、その分は確保すべきだ」という立場の考えからすると、お父さんの相続分は2分の1で、二女の相続分は10分の1になります。

 他方、「法律の根拠なく、配偶者だけを強く保護する理由がない」という立場の考えからすると、お父さんの相続分は5分の2、二女の相続分は5分の1になります。

 このように、法定相続分と、指定相続分は色々な考え方があり、はっきりと法律に記載がないところもあるため、非常に複雑な領域です。