賃貸借と使用貸借の違い

   弁護士になってから、物の貸し借りに関する契約書をたくさん見てきました。

 法律上、物の貸し借りをする際は賃貸借契約か、使用貸借契約という契約を結ぶことになります。

 この2つの契約の最も大きな違いは、物を貸す対価として、お金を支払うかどうかという点です。

 
 この「有料か、無料か」という違いに起因して、2つの契約は様々な違いがあります。

 今回は、賃貸借と使用貸借の違いについて、ご説明します。


1 賃貸借の具体例

 まず、賃貸借の具体例で、イメージをつかんでいただきます。 

 身近な例で言えば、大学生がアパートで独り暮らしをするときや、レンタルビデオ店でDVDなどを借りる場合があります。    


2 使用貸借の具体例

 たとえば、大学生が大学に通うために、親戚の家に居候するような場合は、使用貸借になります。

 また、知人に本を貸して、後日返してもらうような場合も、賃料をとらなければ、使用貸借です。


3 賃貸借と使用貸借の違い

 上記の例から見えてくることは、賃貸借は有料なので、ビジネス的な関係が想定されていることです。

 その反面、使用貸借は無料なので、親しい間柄での、物の貸し借りが想定されています。

 その結果、出てくる違いは、借り手の保護の手厚さです。


 賃貸借は、有料で借りてるわけですから、借主を保護する必要性が高くなります。

 たとえば、1人暮らしをしている人が、大家さんから簡単に「出ていけ」と言われては困ったことになります。


 他方、無料で家を借りている場合は、大家さんから「出ていけ」と言われたとしても、もともと無料なわけですから、そこまで借主を保護する必要はないということになります。

 つまり、賃貸借の方は、借主の権利が強く保護され、使用貸借の方では、貸主の権利が強く保護される傾向にあります。


 その表れとして、賃貸借契約で家に住んでいる場合、賃料を払い続けていれば、契約期間が過ぎたとしても、原則としそのまま自動更新されます。

 大家さんが、住んでいる人を追い出したいと考えても、住んでいる人が何らかの契約違反などをしない限り、追い出すことができません。


 他方、使用貸借契約で家に住んでいる場合は、定めた期限が来れば、いつでも住んでいる人を追い出すことができます。

 また、賃貸借契約の場合、家の維持・管理をするための費用は、基本的には大家さんが修理をする義務を負います。

 他方、使用貸借の場合は、家を維持・管理するための費用は、原則として借主が負担することになります。


 このように、「有料か、無料か」という違いから、賃貸借と使用貸借は、様々な違いが生まれます。

所有権と占有権の違い

 所有権という言葉は、法律の世界でもよく出てきます。

 法律の世界の言葉は、日常的に使われている言葉と、意味が全然違うときがありますが、所有権という言葉については、日常用語で使われている意味と、あまり違いはありません。

 
  所有権を持っている人(所有者)は、その物を使ったり、貸したり、売ったりすることができます。

 つまり、その物を基本的に好きにできる権利のことを所有権と呼んでいます。


 他方、法律の世界では、占有権という言葉が出てきます。

 占有権という言葉は、あまり日常的に使われることはありませんが、どのような意味なのでしょうか。

 占有権とは、物を自分の支配下に置いている状況の事を指すというイメージです。


 たとえば、友達からボールペンを借りた場合を考えてみましょう。

 友達からボールペンを借りた場合、あくまで借りただけなので、そのボールペンの所有権は友達が持っています。


 他方、ボールペンを借りた人が、実際にそのボールペンを使って字を書いている時、そのボールペンは、借りた人の支配下にあると言えます。

 ボールペンを借りた人は、あくまで借りているだけなので、そのボールペンを勝手に誰かに売ったり、貸したりすることはできません。

 ボールペンを借りた人は、ボールペンを自分の支配下に置いていますが、自分の好きなようにボールペンを処分することはできないのです。

 

 もう1つ具体例を出します。

 社会人になって、マンションで一人暮らしをすることになった場合、そのマンションの所有権は、あくまで大家さんが持っています。

 他方、その家に住んでいる人は、その家を自分の支配下に置いているため、その家を占有権を持っています。

 マンションを借りた人は、その部屋を支配下に置いているため、自分以外の人が勝手にマンションの部屋に入ろうとしたら、追い出すことができます。

 
 しかし、マンションを借りた人は、マンションの所有者ではないため、マンションを売却したり、誰かに貸したりはできません。


 何となく、所有権と占有権の違いについては、イメージしていただけましたでしょうか。

 一言で言うなら、所有権は、「自分の物なんだから、どうしようと自分の勝手だ」という権利で、占有権は「一定の範囲で他人の所有物を利用することができる権利」というイメージです。


 所有権について、少しだけ補足しておきます。

 所有権は「自分の物なんだから、どうしようと自分の勝手だ」というイメージだとご説明しましたが、当然法律上の制限があります。

 たとえば、不要になった家電を、道端に捨てると不法投棄になってしまいます。

 
 また、人間のように、そもそも所有権の対象になり得ない存在もあります(厳密には、奴隷制度を認めていた時代は、人間を物と同じように扱うことが法的に可能でしたが、今の日本の法律では不可能です。)。


 今、自分が手にしている権利が所有権なのか、占有権なのかによって、どのような裁判をするのかも変わってきます。

 所有権や占有権を侵害された場合には、弁護士にご相談ください。

 

錯誤と詐欺の違い

 民法を学ぶと、錯誤や詐欺といったキーワードを知る機会があります。
 何となく言葉の意味は分かるものの、イメージがしずらいところではありますので、具体例を見つつ、解説をさせていただきます。
 
 錯誤は、大雑把なイメージで言うと、「思っていたことと違うことをしてしまった状態」を指します。
 言葉だけでは分かりずらいので、具体例を出します。

 
 たとえば、コンビニの店長がジュースの仕入れをする際に、発注書に「ジュース100本」と記載すべきところを、うっかり「ジュース1000本」と記載するようなケースです。

 この場合、コンビニの店長は、ジュース100本を買うつもりだったのに、間違って10倍の発注をしているため、「思っていたことと違うことをしてしまった」と言えます。
 
 1つだけではイメージがわかないので、もう一つ具体例を出します。

 たとえば、100円と100ドルが同じ価値だと勘違いして、100ドルで売られている食器を買う契約をした場合も、錯誤にあたります。

 このケースだと、「100円でこの食器を買おうと思ったけど、実際には100ドルの食器を買ってしまった」ということになります。
 
 他方、詐欺とは、「誰かに騙された結果、思っていたことと違うことをしてしまった状態」を指します。
 これも言葉だけでは分かりにくいので、具体例でみてみましょう。

 
 たとえば、悪徳業者から100万円で宝石を買ったものの、実はその宝石はガラス製の偽物だったような場合です。

 悪徳業者が偽物であると知って、その宝石を売りつけた場合、買主を騙しているわけですから、詐欺行為が存在します。
 その結果、買主は錯誤に陥り、「本物の宝石を買うつもりで、偽物の宝石を買った」ことになります。
 つまり、「騙された結果、思っていたことと違うことをしてしまった」ことになります。

 
 このように、錯誤と詐欺の一番大きな違いは、相手が騙す行為をしているかどうかという点にあります。

 端的に言えば、錯誤は「勝手に勘違いした場合」、詐欺は「相手に騙されて勘違いした場合」ということになります。
 
 では、錯誤や詐欺があった場合、一度交わした契約などはどうなるのでしょうか。

 この点は、錯誤や詐欺で違いはなく、どっちの場合でも契約を取り消すことができます。
 
 もっとも、どんな場合でも契約を取り消すことができるというわけではありません。
 たとえば、錯誤であれば、勘違いしたことに重大な過失がある場合は、契約を取り消すことができません。
 どういった場合に契約を取り消すことができるかについては、弁護士に相談することをお勧めします。