補助人の職務と権限

 判断能力はあるものの,一部心配な部分があるため,サポートできる体制を作っておきたい。
 補助制度は,そんな場合に利用されます。
 

 たとえば,軽度の認知症にかかっているAさんという人物を例に考えてみましょう。
 
 Aさんは,認知症があまり進んでいないため,記憶力や集中力はしっかりしています。

 ただ,文章を読んで理解する力がやや衰えていたり,人の話を聞いて,理解に時間がかかることがあります。
 
 そのためAさんは,内容を理解したわけではないのに,相手に気を使って,とりあえず「はい」とか「いいよ」といった,迎合的な発言をしてしまうことがあります。
 
 そんなAさんの特徴を利用して,知人Bさんが色々な理屈をこねた上で,「お金を恵んで欲しい」と言ってくることがあり,Aさんはついつい「いいよ」と答えてしまうことが続いていました。
 
 このようなケースでは,ついついお金をあげてしまうAさんを保護する必要があります。

 そこで,補助人をAさんにつけ,Aさんがお金をあげるときは,事前に補助人の同意が必要としておきます。
 
 こうすることで,Aさんがついお金をBさんにあげてしまっても,補助人は契約を取り消すことができます。

 
補助制度は,他の後見制度である成年後見や保佐と比べると,利用されることはあまり多くありません。

 判断能力がまだまだしっかりしているという状態で,わざわざ裁判所で補助人をつけるという手続きをしようと思う人が少ないことが理由と思われます。
 
 また,判断能力がしっかりしている状態であれば,財産の管理を子どもに任せるなどの方法で,大きなトラブルは回避することができます。
 
 補助制度の利用を検討されている方は,任意後見契約や家族信託という制度も検討することをお勧めします。
 
 どの制度を利用するのが最善かは,成年後見制度や家族信託に詳しい弁護士にご相談ください。

保佐人の職務と権限

 重度の認知症等で,判断能力が著しく低下した人には,後見人が就くことになります。
 他方,判断能力がそこまで低下しているわけではない場合は,保佐人が就くことがあります。
 
 保佐人が就く場合は,サポートを受ける人(被保佐人)が判断能力を有していることが前提となっています。
 
 そのため,保佐人は原則として被保佐人の財産を管理する権限はありません。
 
 では,保佐人はどういった職務を行うのでしょうか。
 保佐人が選任されると,「被保佐人の行為のうち,重要なものについては,保佐人の同意が必要になる」という法律があります。
 保佐人の職務は,この同意をするかどうかを決める,というものです。
 
 たとえば,被保佐人が借金をしたり,不動産の売却や購入をする場合は,保佐人の同意が必要です。
 
 また,被保佐人の財産を誰かに贈与したり,裁判をしたりする行為も保佐人の同意が必要です。
 
 仮に,保佐人の同意なく,これらの行為を行った場合,保佐人はこれらの行為を取り消すことができます。

 
 このように,保佐の制度は,原則として被保佐人が自由に財産上の行為ができることを前提に,悪い人に騙されて大きな損害を被る恐れがあるような場合だけ,保佐人が被保佐人をサポートすることで,被保佐人の保護を図るという設計になっています。
 
 もっとも,保佐人に特別に財産の管理権を与えることもできるなど,保佐の制度は柔軟性も持っています。
 
 保佐制度には後見制度にはないメリットもありますので,保佐制度について詳しく知りたい方は,一度弁護士にご相談ください。

後見人の権限と職務

 たとえば,寝たきりになって意識がない人や,重度の認知症になった人は,悪い人に騙されて財産をとられてしまう可能性があります。
 また,そういった症状の人は,設備が整った施設で,手厚い保護が必要になります。
 

 後見人はそういった人を全面的にサポートする責務を負うため,それに見合った広い権限を与えられます。

 
具体的には,サポートを受ける人(被後見人)の財産について包括的な代理権を持ちます。
 
 たとえば,病院や施設に利用料を支払ったりするために預金を払い戻したり,場合によっては家を売却することも可能です。
 
 ただ,もちろんこれらの行為はサポートが必要な被後見人のために行うのであって,お世話をする立場にある後見人が私利私欲のために権限を行使することは許されません。
 
 広い権限が認められている後見人ですが,被後見人の代わりに行うことができない行為もあります。
 
 たとえば,婚姻,離婚,養子縁組など,家族関係に関わる行為は,本人の意思でのみ行うべきとされているので,後見人が代わりに行うことはできません。
 
 また,遺言書の作成についても,本人の意思でのみ行うべき行為であるため,後見人が代わりに遺言書を作成することはできません。
 
 後見人として行う義務がある行為と,行ってはならない行為というものがあり,これらを知らずに後見人の職務をこなすことは非常に危険です。
 
 
 成年後見制度の利用を検討されている方は,後見制度を利用した場合に発生する義務や権利について,事前に弁護士から説明を受けることをお勧めします。

後見制度を利用する前のチェックポイント

 成年後見制度を利用しようとした場合,その旨を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
 では,誰であっても成年後見制度の申立てをできるのかというと,それは違います。
 

 成年後見制度は,判断能力が低下した人を守るための制度であるため,判断能力が低下した人と近しい人のみが,申立てをすることができます。
 

 具体的には,判断能力が低下した本人,配偶者,4親等内の親族などです(その他細かい例外はあります)。
 
 4親等内の親族とは,判断能力が低下した人の両親,子,兄弟,伯父,叔母,従兄弟などが該当します。
 
 次に,後見人(判断能力が低下した人をサポートする人)になる場合にも,一定の条件を満たす必要があります。
 まず,未成年者は後見人になることができません。
 
 次に,破産した人や行方不明の人も後見人になることはできません。
 
 後見人は,判断能力が低下した人を守り,安心して暮らせるようにするための環境を整備する責務があるため,その責務を十分にまっとうできる人でないといけないためです。
 
 裁判所の方針として,後見人は家族がなるべきとされていますが,法律上はそのような制限はなく,法律の専門家が後見人になることもよくあります。
 
 
 成年後見制度の利用を検討されている方は,誰が申立てをするのか,誰が後見人になるのかといったことについて,事前に弁護士に相談して,今後のプランを考えることをお勧めします。

成年後見制度の概要

 成年後見制度は,認知症等の理由で,判断能力が低下した人を保護するための制度です。

 たとえば,判断能力が低下した人をターゲットに,「名古屋の土地は絶対値上がりするから,今のうちに買っておくとお得ですよ」等と言って,不動産を買わせようとしてくる業者がいるかもしれません。
 
 そのような悪徳業者から,判断能力が低下した人を守る必要があります。
 
 また,体が不自由になると,施設に入所するための契約等を行うことがありますが,判断能力が低下すると,そういった契約ができない可能性があります。

 
 そういった場合に,判断能力が低下した人を助けるための制度が成年後見制度です。
 
 先程の具体例では,成年後見人になった人が,不要な不動産を交わされた場合に,その契約を取り消したり,判断能力が低下した人の代わりに施設に入所する契約を締結したりできます。
 
 成年後見制度には具体的に3つのパターンがあります。
 一つ目は,判断能力が低下した人を全面的にサポートする「後見」制度です。
 
 後見人は,判断能力がかなり低下した状態が長く続いている人の代わりに,様々な活動を行います(たとえば,寝たきりで意識がない人や,重度の認知症で家族の顔や名前が分からないような場合に後見人がつきます)。
 
 二つ目は,「保佐」制度です。
 
 保佐制度は,後見人が就く必要があるほどには,判断能力が低下していない場合に,利用されます。
 三つ目に「補助」制度があります。
 
 補助制度は,保佐人が就く場合より,さらに判断能力が低下していない場合に利用されます。
 
 成年後見制度は,ご家族の判断能力の程度に合わせて,適切な判断が必要になりますので,成年後見制度の利用を検討されている方は,弁護士にご相談ください。