たとえば、遺産の分け方で相続人同士がもめてしまい、収拾がつかなくなった場合、弁護士に交渉を依頼するということがあるかもしれません。
もし、弁護士に遺産の分け方を依頼することになった場合は、弁護士と契約を結ぶことになります。
この弁護士との契約は、民法では委任契約と呼ばれています。
今回は、委任契約というものについて、ご説明したいと思います。
1 他の契約と比較した場合の委任契約の特徴
委任契約は、何らかのお仕事を任せることを内容とします。
何らかのお仕事を依頼するという意味では、たとえば会社が従業員を雇って、お仕事を任せるという場合がありますが、これは委任契約とは言いません。
会社が従業員を雇う場合は、雇用契約です。
雇用契約では、基本的に従業員は会社の業務命令に従わなければなりません。
しかし、委任契約は、そのような指揮・命令関係はありません。
また、何らかのお仕事を任せるという意味では、大工さんに家を建ててもらうという契約もありますが、これも委任契約とは言いません。
この契約は、あくまで「家の完成」を目的としているため、大工さんは家を完成させない限り、原則として報酬を受け取ることができません。
このような契約類型を請負契約と言います。
他方、委任契約は、何らかの仕事を完成させなくても、報酬を得ることができます。
たとえば、弁護士が裁判をして負けたとしても、裁判を行ったことへの報酬はお支払いいただくことになります。
2 医師の診察や手術も委任契約
病院で診察を受けたり、手術を受ける場合も、委任契約の一種と考えられています。
たとえば、患者は医師に対して、指揮・命令権は持っていませんし、仮に治療の甲斐なく亡くなってしまっても、医療費は支払わなければなりません。
そういった意味で、医師と患者の契約関係は、雇用契約でも、請負契約とも言えません。
3 委任契約は原則として無料?
法律では、委任契約によって、報酬を請求する場合、その旨の特約を結んでおく必要があるとされています。
そのため、委任契約は原則として無報酬というのが、法律の建前と言えます。
もっとも、「普通、このサービスが無料なわけないでしょう」というものについては、特約がなくても有料になることがあります。
たとえば、弁護士や医師に依頼した場合に、無料でサービスを受けることができるかと言うと、それは社会通念上難しいということになります。
もっとも、実際の場面では、委任契約を結ぶ際は、契約書に署名・押印することが多いため、委任契約が無料という場面は少ないと思います。