親の口座から多額のお金が払い戻されている場合の対応方法

 親が高齢になると、子が親の財産を管理するということは、珍しいことではありません。

 たとえば、お父さんが高齢になり、施設や病院に入院している間は、お父さんが自分で施設費用や医療費を支払うことは、難しいことが多いでしょう。

 そういったケースでは、お父さんが子に通帳を預け、必要な費用の支払いを託すことがあります。

 通帳を託された子が、お父さんのための生活費や医療費など、「お父さんのためにお金を使った」のであれば、何も問題ありません。

 しかし、お父さんの口座から自由にお金を払い戻せるという状況を利用し、不正にお金を使ってしまうというケースがあります。

 もし、家族の誰かが、親の口座からお金を不正に払い戻していることを知った時は、どうすればよいのでしょうか。

 まず、お父さんが認知症などになっておらず、判断能力がしっかりしている場合は、お父さんに対し事実を伝え、通帳を取り戻すことになります。

 お父さんは、自分の財産の管理権限を持っている以上、通帳を預かった子は、通帳の返還を拒むことはできません。

 ただし、お父さんが遠慮してしまい、強く言えないケースや、子が通帳の返還を拒むようなケースもあります。

 その際は、銀行に対し、「不正な払戻しをされている」旨を伝え、払い戻しができないようにしてもらうという方法があります。

 他方、もしお父さんが認知症になっていて、判断能力が乏しい場合はどうすればいいのでしょうか。

 先ほどと同じく、銀行に事情を伝え、口座を凍結してもらうという方法があります。

 しかし、口座を凍結させてしまうと、そこから施設の費用や入院費を支払うことが難しくなります。

 こういった場合には、後見制度を使うという選択があります。

 裁判所に後見人を選任してもらうことができれば、お父さんの財産の管理権限は、後見人に移ります。

 後見人が職務を開始すれば、それ以降の施設費用や入院費は、後見人がお父さんの財産から支払うことになります。

 もっとも、後見制度は、誰が後見人になるか分からない点や、財産の使い方に厳しい制限がつくなど、使い勝手が悪いという意見もあります。

 そのため、可能であれば、お父さんがお元気なうちに、生前契約を結んでおくことがお勧めです。

 たとえば、あらかじめ後見人になる人を指定できる「任意後見制度」や、特定の財産の管理権限を家族に移してしまう「家族信託」といった制度を利用すれば、認知症になった際にも慌てる必要はありません。

 ただし、どんなケースで、どの制度を利用すべきなのかは、その時の財産状況、家族構成などによって異なってくるため、どの制度を利用するかについては弁護士に相談することが大切です。

 

 

 

 

怪しい預貯金の引き出しがある場合の相続

 遺産を分ける手続きを行う場合,亡くなった方の通帳を見ると,怪しい引き出しが見つかるときがあります。
 たとえば,お父さんが入院していて,特にお金を必要としていないはずの時期に,毎週50万円が引き出されている場合等です。

 

 亡くなった方の通帳を管理していた人(たとえば長男)が,引き出したお金を何に使ったのか説明し,正当な理由があれば何も問題はありません。
 しかし,長男が,「私は何も知らない。引き出したことなどない」と主張したり,「引き出したお金は,お父さんのために使った」,「お父さんに手渡ししたから,何に使ったのかは知らない」と主張してきた場合,遺産を分ける手続きが紛糾する場合があります。
 長男がこのような主張を続ける場合,怪しい預貯金の引き出しを巡って,裁判をすることになります。

 

 その裁判では,まず長男が預貯金を引き出したという事実を証明する必要があります。
 そのためには,長男がお父さんの通帳,印鑑,キャッシュカード等を管理していたことや,お父さんが入院中で,預貯金を引き出すことができなかったこと等を主張することになるでしょう。

 たとえば,名古屋でお父さんが入院しているのに,名古屋以外のATMから預貯金を引き出されている場合,少なくともお父さんが預貯金を引き出したわけではないことが分かります。
 そのATMが長男の家の近くだということになれば,長男が預貯金を引き出したことを証明する一つの事情になります。
 次に,長男が預貯金を引き出したとして,お金をどのように使ったのかが問題になります。
 仮に,お父さんの入院費用や,介護の費用のために預貯金を引き出したのであれば,それはお父さんの預貯金をお父さんのために使ったと言えるため,不正な預貯金の引き出しとは言えないでしょう。
 他方で,毎週50万円の預貯金が引き出されていれば,通常そのような大金が必要になることは考えにくく,長男が自分のために預貯金を引き出したことを示す事情の一つになります。

 

 このように,怪しい預貯金の引き出しは,様々な事実や証拠によって,それが不正な預貯金の引き出しであることを証明する必要があります。
 そのため,亡くなった方の通帳に怪しい預貯金の引き出しがある場合は,弁護士に相談することをお勧めします。

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