法律では、「善意」や「悪意」という言葉が出てくることがあります。
たとえば、「善意の第三者」とか、「悪意の占有者」といった形で、法律の中に登場します。
ここで、あえて「法律の中に登場します」と説明した理由は、もちろん日常用語の「善意・悪意」と、法律用語の「善意・悪意」は意味が異なるためです。
まず、「善意」は、日常用語としては「相手のためを想って」といった意味で使われます。
他方、法律用語としての「善意」は、「知らない」という意味で使われます。
実際の法律の規定を見てみましょう。
民法162条2項には、「10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」と記載されています。
この規定は、他人の所有物を、ずっと占有し続ければ、その財産を自分の物にできることを定めた規定です。
たとえば、他人の土地に家を建てた場合、家を建てた人は、その土地を占有していることになります。
その占有状態を10年間続けると、その土地の所有権を取得することができます。
ただし、いくつかの条件があり、その条件の一つに「善意」が入っています。
善意は「知らない」という意味なので、ここでは「その土地が他人の土地だと知らなかった(自分の土地だと信じていた)」という意味で使われています。
次に、「悪意」は、日常用語としては、「相手に害を与えてやろう」など、悪いイメージの言葉として使われます。
他方、法律用語としての「悪意」は、「知っている」という意味で使われます。
こちらも実際の法律の規定を見てみましょう。
民法704条には、「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。」と規定されています。
この規定は、本来得るべきでない利益を得た人は、その利益に利息をつけて返さなければならない旨を定めています。
たとえば、間違って自分の口座に振り込まれた100万円を使ってしまった場合、その100万円に利息を付けて返さなければならないということです。
この規定には、悪意の受益者という言葉が出てきますが、この言葉の意味は「自分に振り込まれた100万円が、間違って振り込まれたものであることを知っていた」ということになります。
このように、法律用語としての「善意」や「悪意」は、日常用語とはかなり異なる意味を持っています。
その他にも、法律用語と日常用語の意味が異なるものがありますので、勘違いしたまま話を進めると、思わぬ不利益を受ける可能性があります。
そのため、法律のことでお困りの方は、弁護士に相談することが大切です。