法人の破産の特殊性

 ニュースなどでは、会社の破産について、破産ではなく、倒産という言葉が使われることが多いように思います。

 しかし、裁判所での手続きでは、倒産という言葉はあまり使わず、普通に破産という言葉が使われますし、法律上、個人の破産と法人の破産は区別されていません。

 もっとも、法人の破産は、個人の破産にはない特殊性があり、弁護士もそこに注意を払います。

 まず、個人の破産と比較し、債務額が大きくなりがちで、数千万円から、数億円の債務があることも珍しくありません。

 また、会社の代表者が連帯保証人になっていることが多いため、会社の破産を行う場合、代表者も一緒に破産することが多いです。

 さらに、個人の破産であれば、債権者の多くは消費者金融やクレジットカード会社ですが、会社の破産の場合、債権者は多種多様です。

 たとえば、飲食店を経営している会社であれば、食材の仕入れ業者などにも未払いがあったりしますし、従業員への給与が未払いであれば、従業員も債権者にあたります。

 特に、従業員の方の扱いは、とても慎重な検討が必要です。

 破産に伴い解雇するのであれば、原則として、解雇予告手当というものの支払わねばならず、その原資の確保に気を使いますし、なるべく給与も全額支払えるようにしなければなりません。

 仮に、給与を全額支払えなかった場合、未払い給与の一部を立て替えてもらえる制度があるため、その活用も必要ですが、期間制限があるので、迅速な対応が求められます。

 また、会社が破産をする場合、事前に弁護士に相談し、色々な準備をしてから、破産する旨の通知を関係者に送ることが多いですが、その途中で、従業員や取引先などに破産のことを知られると、大混乱を招くことになるため、情報漏洩にも気をつけなければなりません。

 

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法人の破産をする場合、同時廃止はあり得るのか

 自己破産の手続きでは、同時廃止と管財の2つの類型があります。

 まず、個人の方の自己破産手続きの場合、比較的簡単な案件であれば、同時廃止となり、複雑な案件の場合は、管財事件となります。

 では、法人の自己破産を行う場合、同時廃止になることはあるのでしょうか。

 まず、破産法の条文を見ると、法人の自己破産を行う場合であっても、同時廃止が禁止されているわけではありません。

 そのため、たとえば従業員が1人もおらず、何年間も活動していないような法人であれば、同時廃止もあり得るように思います。

 しかし、大阪地方裁判所での運用では、法人の自己破産について、同時廃止は認めないという運用をしています。

 その理由は、色々とありますが、簡易な手続きである同時廃止では、十分な調査ができないという点があげられます。

 つまり、法人は、営業している間は、一定額の財産を保有していたはずであり、それが、どのような経緯でなくなっていったのかを明らかにしなければならず、またその経緯次第では、自己破産を認めることが相当ではないという判断もあり得るのです。

 たとえば、現時点で、法人の財産は、ほとんどなく、従業員もいないという状態であっても、調査をしてみると、2年前の時点では、預金が1000万円存在し、その1000万円が現金で払い戻され、行方がしれないということもあり得ます。

 このようなケースであれば、その1000万円の行方を調査しなければなりません。

 そのため、法人の自己破産については、簡易的な調査で終わる同時廃止ではなく、管財事件にすべきと裁判所は考えているようです。

 法人の自己破産を行う場合は、弁護士に相談の上、管財事件になることを前提に、手続きを進める必要があります。

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大阪地裁で管財事件になるケース

 自己破産の手続きを行う場合、同時廃止事件と、管財事件の2つの類型があります。

 ざっくりしたイメージで言うと、同時廃止事件は、すごく簡単に手続きが終わるもので、管財事件は、手続きに時間がかかるものを指します。

 破産法では、管財事件が原則で、同時廃止事件が例外という扱いになっています。

 では、大阪地裁では、どのようなケースで管財事件になるのでしょうか。

 まず、現金や預貯金が50万円以上ある場合は、管財事件になるとされています。

 また、現金や預貯金以外の財産で、20万円以上のものがあれば、管財事件になるとされています。

 その他、管財事件になりやすい類型がいくつかあります。

 まず、個人事業主については、事業のお金と生活のお金が、あまり区別されることなく管理されていることも多いため、財産状況の解明のために、管財事件になりやすいです。

 次に、通帳の履歴などから、財産状況が不透明と認められる場合も、その疑念を解消するため、破産管財人がつきやすくなります。

 また、一部の債権者にだけ、優先的に返済していたり、財産を不当に安く売却するなど、他の債権者を害するようなことをしてしまっている場合も、管財事件になりやすいです。

 さらに、浪費癖があるなど、収支に問題があるような方の場合、生活状況の指導をすることを念頭に、管財人が就くということもあります。

 管財事件になると、裁判所に支払うお金が高くなりますので、弁護士に相談した際は、管財事件になる見込みについても、確認しておくことが大切です。

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刑事事件の控訴審

 刑事事件の一審で、有罪判決が出た場合、弁護士(弁護人)としては、高等裁判所に不服申し立てをすることを検討しなければなりません。

 この不服申し立てを控訴といいます。

 弁護士(弁護人)は、控訴審で、一審判決のおかしい部分を、徹底的に追及することになります。

 たとえば、コンビニ強盗事件おいて、①犯人は黒いジャージ姿であった、②犯人は、身長が170センチだった、③犯人は、包丁を使って店員を脅したという事実関係があったとします。

 仮に、1審判決が、①被告人の家から、黒いジャージが発見された、②被告人の身長は170センチである、③被告人の家から包丁が発見された、という点を根拠に、被告人が有罪であるという判決を書いた場合は、どのような追及が考えられるでしょうか。

 まず、上記①~③の点から、被告人が犯人であると断定することは困難であると主張することになるでしょう。

 つまり、①黒いジャージは珍しいものではないし、②身長170センチの人はたくさんおり、③どの家にも包丁くらいあって当然という主張をすることが想定されます。

 このように、事実関係で争いがあるようなケースでは、論理法則や経験則などを駆使して、1審判決に対し、反論をしていかなければなりません。

 他方で、事実関係を争っていなくても、量刑が不当であるという主張もあり得ます。

 たとえば、今までの裁判の相場観からすれば、懲役1年程度が妥当であるというケースにもかかわらず、懲役10年という判決が出てしまった場合、その量刑の不当性を主張することになります。

 

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保釈が認められるケース

 身体拘束がされたままの裁判は、被告人にとって、精神的・身体的に負担がかかります。

 たとえば、仕事をしている方は、仕事を休まなければならず、学生であれば、学校を休まなければなりません。

 もし、保釈が認められれば、刑事裁判中であっても、仕事を続けたり、学校に通うことができますので、弁護士(弁護人)としては、保釈を認めてもらうことも、重要な業務になります。

 では、どのような場合に、保釈が認められるのでしょうか。

 まず、保釈には、権利保釈というものがあります。

 権利保釈は、原則として保釈が認められるものの、一定の事由に該当する場合には、保釈を認めないというものです。

 権利保釈で一番問題となるものが、刑事訴訟法89条4号で定められている「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」というものです。

 罪証とは、いわゆる証拠です。

 つまり、身柄を拘束しないと、犯罪の証拠を処分したり、隠したりしそうな場合は、保釈を認めないというものです。

 また、裁判では、証人の証言も重要ですので、ここでいう証拠には人も含まれます。

 つまり、被告人が、証人に圧力をかけて、証言を歪める恐れがある場合は、保釈を認めないということです。

 また、権利保釈の条件を満たしていないであっても、裁判所が保釈を認めることがあり、これを裁量保釈といいます。

 たとえば、重大な疾病などがあり、病院や自宅で療養をしなければ、症状が悪化し、刑事裁判を進めることができないようなケースでは、裁量保釈が認められることがあります。

 また、刑事裁判の間、ずっと身柄を拘束されていると、仕事を失い、家族が路頭に迷うことになるといった経済的な事情や、学生が長期間、学校を休むことで退学になってしまう可能性があるなどの事情も、裁量保釈で考慮される事情になります。

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刑事事件における誘導尋問

 「異議あり」という言葉は、弁護士が出てくるドラマやゲームなどの影響もあってか、広く認知されているかもしれません。

 ただ、実際の裁判では、「異議あり」という言葉を聞くケースは少ないかもしれません。

 もちろん、異議が出てしまうような変な質問がなされることが少ないということもありますが、そもそも異議を出せる場面というのは、法律上限られているということも、異議が少ない理由かもしれません。

 刑事事件の証人尋問では、誘導尋問は原則禁止とよく言われることがあり、もし誘導尋問がされれば、すぐに異議を出すかどうかを検討しなければなりません(氏名や職業など、全く争いがない事実の確認の際は、異議を出す必要はありませんが・・・。)。

  誘導尋問は、大雑把に言えば、イエス・ノーで回答できるような質問を指します。

 たとえば、犯行を目撃したという証人に対し、「あなたは、被害者が刺された場面を目撃したんですよね?」、「刺した人は、そこに座っている被告人ですよね?」といった質問は誘導尋問にあたり、このような質問がなされれば、すぐさま異議を出す必要があります。

 誘導尋問が禁止される趣旨は、質問者によって回答を暗示され、質問者が言ってほしいことをしゃべらせてしまう結果、証人等が、自らが体験した事実を語ることができず、真実が歪められてしまうおそれがあるためです。

 イエス・ノーで回答できる質問は、すでに質問者が回答してほしい事柄が出てきてしまっているので、誘導尋問になり、禁止されています。

 そこで、尋問では、イエス・ノーで回答できるような質問ではなく、5W1Hで回答しなければならないような質問をしなければなりません。

 たとえば、「あなたは、事件があった当時、どこにいましたか」、「あなたは、そこで何を目撃しましたか」、「誰が、誰を指したのですか?」といったような質問をしなければならないということです。

 

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保釈制度

 刑事事件の世界では、保釈という制度が存在します。

 保釈という言葉自体は、ニュースなどでも使われることもあり、多くの方が一度は聞いたことがあるかもしれません。

 今回は、この保釈という制度について、ご説明します。

 まず、刑事事件においては、被告人の身体拘束がなされた状態で審理が進むことは、実は件数としては少数と言えます。

 多くの場合、被告人は、裁判中も普通に生活し、裁判の日だけ、裁判所に行くという生活を送ります。

 他方で、被告人が逮捕され、身体拘束がされたまま裁判が進むこともあります。

 刑事裁判は、少なくとも数か月、長ければ何年も審理に時間がかかる手続きですので、被告人にとっては、かなりの負担になってしまいます。

 そこで、刑事事件の審理中であっても、被告人の身体拘束を解除するための手続きが用意されており、これが保釈です。

 この保釈を求めるために、弁護士(弁護人)は、様々な準備をする必要があります。

 まず、被告人の身元引受人を探す必要があります。

 身元引受人は、通常は同居の親族が就任することが多いですが、雇用先の社長や、友人などが就任することもあります。

 また、保釈をするためには、保釈保証金を用意しなければなりません。

 保釈保証金は、150万円から200万円程が多く、ニュースになるような事件だと、1000万円を超えることもあります。

 

 

 

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刑事事件における証拠の関連性

 刑事事件の世界では、証拠の自然的関連性という言葉が、時々出てきます。

 自然的関連性とは、ざっくり言うと、「その証拠で、ある事実の存否を推認できること」を指します。

 つまり、刑事裁判で提出される証拠は、必ず、何らかの事実の存否を証明するために提出されるので、全然関係ない証拠を提出しても、「自然的関連性がない」ということになり、証拠として認められないということになります。

 たとえば、Aさんが、覚せい剤使用の容疑で、逮捕されたとします。

 この場合、Aさんが覚せい剤を使用した証拠として、「Aさんの尿から、覚せい剤の成分が検出された」という鑑定書が提出されたら、どうでしょうか。

 このような鑑定書は、Aさんの覚せい剤を使用したことを推認させる証拠と言え、自然的関連性があるということになります。

 他方、「Aさんの友人のBさんの尿から、覚せい剤の成分が検出された」という鑑定書はどうでしょうか。

 この鑑定書があっても、Aさんが覚せい剤を使用したことを推認することは困難ですので、Aさんとの関係では、自然的関連性がないということになります(もちろん、Bさんの覚せい剤の自己使用という事実との関係では、自然的関連性ありということになります)。

 弁護士(弁護人)は、検察官が提出しようとする証拠を見て、自然的関連性があるかないかを検討し、裁判所に対し、証拠の意見を出すことになります。

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簡易な刑事裁判手続き

 刑事裁判は、人の一生を左右する程に重大な手続きです。

 そのため、通常、公開の法廷で、厳格な審査が行われます。

 しかし、全ての刑事事件で、長期間かけて、厳格な審査を行うことは、非効率的であるという考え方もできます。

 たとえば、比較的軽微な事件で、証拠がそろっており、加害者も犯行を認めているような場合は、長期間の審理を経る必要性は乏しいと言えます。

 そのような場合に用意されている制度として、簡易裁判手続と、即決裁判手続というものがあります。

 両方とも、比較的軽微な事件で、争いがない事件で用いられる制度であり、短期間で、裁判を終わらせるものではありますが、簡易裁判手続は、普通の刑事裁判とおまり手間が変わらないことから、実務ではあまり使われておらず、即決裁判手続きの方がよく用いられます。

 次に、略式手続というものもあり、これが最も実務上利用されていると言われています。

 略式手続きは、検察官が、簡易裁判所に略式請求を申立て、公判手続きを経ることなく、罰金や過料を言い渡す手続きです。

 つまり、当事者は、裁判所に行く必要がなく、迅速に終了するというメリットがあります。

 他方、略式手続きは、被疑者が被疑事実を認め、争わない場合に利用する制度ですので、無罪を主張したい場合には、使うことができません。

 私が、弁護士として相談を受けた際も、略式手続のメリットやデメリットは慎重に説明するように心がけています。

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被害者参加制度

 刑事事件において、2007年の法改正により、被害者参加制度というものが導入されました。

 刑事裁判は、検察と被告人が戦うという性質上、被害者の方は置き去りにされているということも言われていたため、被害者の方も、裁判に参加できるようにという趣旨で始まった制度です。

 刑事裁判では、関係者以外は、傍聴席にしか入ることはできませんが、被害者参加人は、刑事裁判に出席し、証人尋問、被告人質問などをしたり、意見を述べることが認められています。

 被害者参加制度は、全ての刑事事件が対象になっているわけではなく、一定の重大犯罪に限定されています。

 たとえば、殺人、強盗致傷、不同意性交等、逮捕及び監禁、誘拐などです。

 また、被害者参加人となることができる人は、基本的には被害者本人ですが、被害者の方が未成年の場合などは、親権者である両親(法定代理人)が、参加することができますし、被害者の方が亡くなっている場合や、心身に重大な症状があるといった場合は、被害者の方の配偶者、親、兄弟姉妹などが参加できます。

 被害者参加をする場合は、あらかじめ事件を担当する検察官に申し出て、検察官が、そのことに対する意見を、裁判所に通知することになりますが、最終的には、裁判所が参加の可否を決めることになります。

 また、被害者参加制度を利用する場合、弁護士に援助を依頼することもできます。

 

 

 

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